ホルミシス インド ケララ州カルナガパリ地区
インド・ケララ州カルナガパリ地区での放射能と癌の発生率の疫学調査について簡単にまとめました。カルナガパリ地区は高自然放射線地域です。海岸一帯に放射性物質を含んだ「モナザイト」と呼ばれる鉱物が混ざった黒い砂浜が広がり、その中のトリウム、ウラニウムなどから出るガンマ線によって自然放射線量が世界平均の数倍高くなっています。インド・ケララ州カルナガパリ地区の住民の被爆量の平均は3.8mGy/年で、5.0mGy/年を超えるところも25%あります。また、住民の中には10ミリシーベルト以上の放射線の被爆を受ける人もいると言われています。世界平均自然放射線量が2.4ミリシーベルトです。インド・ケララ州カルナガパリ地区の自然放射線量は、世界平均自然放射線量よりも約2倍多いと言えます。
1959年WHO(世界保健機構)は、インド・ケララ州カルナガパリ地区の放射線量が多いことを問題視し、1991年WHOは本格的な疫学調査を開始しました。具体的には、まずインド・ケララ州カルナガパリ地区の中で年間線量の高い4支区(チャバラ、ニンダカラ、アラパド、パンマナ)を高自然放射線地域として、年間線量の低い2支区(オアチラ、テバラカラ)を対照地域として設定しました。ケララ州の首都、ティルヴァナンタプラムには、癌登録センター(RCC)があります。RCCでは、住民の癌に罹患しているか否かを調査し、調査した結果をデータとして管理しています。WHOはRCCの協力を得て、癌の罹患率について調べました。
30~84歳までの住民を対象に癌の罹患率を調査した結果、癌の罹患率と高自然放射線の生涯累積線量との関連性を示す証拠は得られませんでした。分かりやすく言えば、10ミリシーベルト/年レベルの範囲内においては、高自然放射線地域とそうでない地域では癌死亡率の違いはなかったということです。
生涯累積放射線量とは、生まれてから死ぬまでに照射した放射線の量の総和を言います。70年間、10ミリシーベルト/年照射したと仮定して、生涯累積放射線量が700ミリシーベルト以内の範囲においては、癌の罹患率に有意な違いはないということがこのデータから窺えます。インド・ケララ州カルナガパリ地区でのケースは、原子爆弾による短時間での高線量の放射線を被爆したケースとは異なります。カルナガパリ地区でのケースは長時間かけて数百ミリシーベルトの被爆した程度なので健康被害は言えます。生涯累積放射線量が同じでも短時間で照射するか、長時間かけて照射するかで健康に与える影響が異なります。人工的に極度の高線量の放射線を照射するケース(例:原子爆弾が投下された場所の近くにいた人間が短時間に極度に強い放射線を照射したケース)と異なり、自然放射線レベルでの放射線の影響は皆無だと言えるでしょう。
「健康被害はない」との調査結果ですが、年間10ミリシーベルト程度では癌に罹患する人間が増えてはいないと捉えるのが妥当しょう。この調査結果は、積極的に癌かかる人間が減ったことについてまで言及してはいません。この点を考慮すれば、インド・ケララ州カルナガパリ地区のケースは、「低線量の放射線は健康に良い影響を与える」というホルミシス効果を根拠づけるものであると考えるのは妥当ではありません。