放射線の影響〜確率的影響

 「確率的影響」とは、放射線によりDNAが傷ついた時に癌や白血病などの症状が起こりうる影響のことを言います。この「確率的影響」は「晩発障害」と関係があります。

 「晩発障害」とは、ある程度の線量を浴びた場合、被爆からしばらくの潜伏期間を経て障害が出ることを言います。晩発障害の代表的なものとしては、癌と白血病があります。この放射線による影響は「確率的影響」に当たり、必ずしも症状が出るというわけではなく、影響の発生確率は照射した放射線量に比例し「しきい値」がないのが特徴です。

 ちなみに、「100ミリシーベルト以下では発癌リスクの有意な上昇はない」ことが疫学的に立証されています。この「確率的影響」は、潜伏期間が被爆した器官の種類・被爆した時の年齢・被爆線量により異なり、数年から数十年に及びます。それ故、放射線被曝と障害との因果関係が極めて不明確です。因果関係が不明確ということは、障害が発生したとしても他の要因が影響した可能性も排斥することもできないので、障害の原因と特定することができません。「確定的影響」と異なり、ある一定以上の放射線を照射した場合に確実に障害で出るわけではなく、人により個人差もあるので障害の原因となった要因を推測レベルでしか分析する他はありません。イメージ的には

「確定的影響」=障害の原因が放射線=しきい値あり

「確率的影響」=障害の影響が放射線とは言えない=しきい値はなく、障害は放射線量に比例する

 と言ったところでしょうか。

 例えば、原爆被爆者の発癌について、中村仁信大阪大学成教授は以下のように述べています。

「原爆被爆後のストレスです。被爆者の人たちは、熱傷、外傷の他、食糧難による栄養不足、家族・友人の死、生活基盤の崩壊、敗戦のショック、将来の不安、恐怖などは計り知れなったはずです。それ故、激しいストレスに直面したはずです。その結果として活性酸素処理機能、免疫力が低下し発癌のリスクが高まった可能性が考えられます。」

 以上です。中村教授は、発癌のリスクが高くなった要因として放射線以外の要素も検討しており、発癌の原因を放射線と断定していない点で、「確率的影響」の視点で原発被害者の発癌を捉えているのが分かります。

 マラーの提唱した「直線的無しきい値仮説」は、「しきい値」が存在せず、照射した放射線量に比例して染色体異常が増えるという考え方ですが、この「直線的無しきい値仮説」は「確率的影響」に極めて考え方が類似します。

 しかしながら、様々な臨床研究及び動物実験により、

①低線量率放射線は身が体に良い影響を与える効果(ホルミシス効果)がある事

「直線的無しきい値仮説」の誤り

 が実証されるようになりました。その意味で、この「確率的影響」については、照射した放射線に比例して身体は悪い影響を受けるという点に関しては与しかねます。しかしながら、様々な複合的な要因が密接に重なり合って障害を引き起こすと考えている点に関してはそれなりに評価できます。この「確率的影響」は「確定的影響」と異なり科学的に放射線と障害との関係を断定することができず、他の要因を考える点に難しさがあります。